クルディ一家はシリアのアインアルアラブ出身のクルド人で、イスラム国とクルド勢力の戦いが激しくなったため、いったんトルコに逃れ、そこからギリシャのコス島に密航しようとしたが、ボートが転覆したという。
ところがアブドラさんの姉妹ティマさんがカナダ在住で、クルディ一家の難民としての入国を市民権・移民大臣に却下されていたことがわかった。
ティマさんは20年以上前にカナダに移住し、ブリティッシュコロンビア州コキットラムに暮らしている。彼女の夫ロッコ・ロゴッツォ氏は3日、クルディ一家の難民申請が6月に却下されたと語った。だがカナダの市民権・移民省は同日、クルディ一家の難民申請を受理していないと発表した。ティマさんは後に記者会見で、クルディ一家の難民申請を市民権・移民省にしていないと認めた。実は彼女は、別の兄弟モハンマドさんの難民申請をしたが、申請書類に不備があり返却されたという。彼女はアブドラ・クルディさん一家の難民申請についても当然考えていたが、申請は一人ずつしかできないため、まだしていなかったという。モハンマドさんは現在、ドイツに滞在している。
ところが市民権・移民省への申請とは別に、地元ポート・ムーディー=コキットラム選挙区選出のフィン・ドネリー議員(新民主党)が3月、ティマさんの手紙をクリス・アレクサンダー市民権・移民大臣に渡していたことを公表した。アレクサンダー大臣は事件を受けて、地元選挙区での選挙運動を中止して、調査のためオタワに入った。彼はティマさんから、「モハンマドさんとその家族」の難民ステータスを求める手紙を受け取ったことを認めた。
「私は手紙を読み、緊急を要する事態だと理解した。シリアとイラクの紛争地帯には、カナダに縁のある何百万人もの人々がいて、私は彼らのために何でもするつもりだ。私は大臣として、人々が平等に扱われるよう、個人的に関与しない責任がある。」
彼はまた、家族の遺体が発見されたあとでアブドラさんにカナダ市民権を提供したという、一部で報道された情報は事実でないと否定した。
幼児の死がカナダに関係していたと発覚すると、この「難民危機」は総選挙の重要争点と化した。アレクサンダー大臣は、保守党政権の難民受け入れ政策を自賛した。
「カナダには、世界で最も気前のよい移民・難民プログラムがある。カナダは事実、世界の難民の10分の1以上を受け入れている。カナダはすでに、2万2000人のイラク人と2300人のシリア人をすでに受け入れた。」
だが自由党のトルドー党首は、さらに2万5000人の難民をただちに受け入れるべきだと主張した。
「カナダのあらゆる政権は、命の危険から逃れてくる人々を受け入れるため、立ち上がってきた。」
「選挙期間中に、突然同情するようになるのか。同情はするかしないか、どちらか一つだ。政府与党は、カナダはもっと多くのことができたはずだとする野党やNGOの提言を無視してきたではないか。」
新民主党のマルケア党首は、1万人の難民をただちに受け入れるべきだと主張した。
「10月19日(の投票日)まで待つべきではない。すぐに行動すべきだ。」
また彼は、ベトナム戦争で撮影された、裸で逃げる少女の写真「戦争の恐怖」を引き合いに出し、アランちゃんの遺体写真はこの時代を象徴するものになるだろうと語った。
ケベック連合のデュセップ党首は、難民問題を選挙の争点にするのはやめて、挙国一致で対応する「選挙休戦」を提唱した。
「我々はただちに、難民にドアを開けるべきだ。これは、人道上の義務の問題だ。」
地方政界からも、ノバスコシア州のダイアナ・ホエーレン副首相、オタワのジム・ワトソン市長、トロントのジョン・トーリー市長、バンクーバーのグレガー・ロバートソン市長らが、難民受け入れの用意があると表明した。
だが世論が一斉に難民受け入れに傾くなか、ハーパー首相はこれに疑問を呈した。
「ただ一つの小さな側面にだけ対処して、危機そのものに対処できると偽ることは、許されることではない。」
「難民受け入れだけが、この問題を解決するわけではない。これらの人々に危害を加えている、問題の根本的原因であるイスラム国との戦いを、カナダは続けて行かねばならない。」
