
(1) ムーア議員、ウィア議員のハラスメントを告発
ムーア議員は1月30日、新民主党のエリン・ウィア議員が党の女性職員などに嫌がらせをしていると告発した。
彼が幹部会の役職に就きたがっているのは、同僚議員の誰もが知っていた。彼は支援を得るため、議員たちに電子メールを送っていた。だがムーア議員は、あなたの日頃のふるまいについては知っている、私にではなく他の女性たちへの、と返信した。
「あなたは幹部会の中で、その地位を得るにふさわしいと思う最後の人である。あまりに多くの女性たち(ほとんどは職員だが)からの苦情が、私に来ている。そして女性として、私はあなたと、独りでは会いたくないと感じている。政界で今起きていることに鑑みれば、あなたは面倒を避けるため役職に就くべきでないと、私は考えている。」
報告を受けてシン党首は、問題はセクシャルな嫌がらせではないと判断したが、ウィア議員を2月1日、調査報告が終了するまで幹部会の資格を停止すると決定した。
シン党首は「これ以上のアプローチは不要だと言われたとき、ウィア議員はそれに従った」と擁護した。だがウィア議員がその後、メディアを通して「私は何が問題なのかわからない。嫌がらせを受けた人などいない」「幹部会役職への意欲を表明したことへの応答として攻撃が始まったことからして、それには政治的動機があるように思える」と発言したことを、シン党首は問題視した。彼は、ウィア議員は反省と後悔を表明せず、メディアを使って告発者を攻撃しようとしたと断じた。
「重要な第一は、常に犠牲者を信じることである。第二に、前に出て告発したいと思う犠牲者に、安全と思われる居場所を確保することを私は約束する。」
調査報告を受けてウィア議員は、5月3日に幹部会から除名された。彼は院内で、1961年に新民主党に合流し消滅した前身のCCF(The Co-operative Commonwealth Federation※一部で「協同連邦党」と訳されているが、某カナダ学会からこの訳語を使用しないよう強く要請されている)の会派を称している。かつてCCFが新民主党に合流した前例を、再度実現させるのだという。


(2) もう一人の犠牲者
ムーア議員がウィア議員のセクハラを断罪するのを、一人の退役軍人は2400キロ離れたマニトバ州ブランドンで見つめていた。
グレン・カークランド伍長は2008年、アフガニスタンで装甲車を運転していたとき、ロケット弾の攻撃を受けた。彼は膵臓と脊椎と右目と脳を負傷し、視覚と聴覚に障害を負った。PTSDも患った彼は、抗うつ薬・オピオイド鎮痛剤・インシュリン・抗生物質などの毎日の服用を欠かせなくなった。
彼は、負傷した退役軍人の扱いについて証言するよう下院の国防委員会に依頼され、2013年6月、胸にメダルをつけて議会で証言した。彼は「退役軍人の父が、軍人としての責務を果たせば国が最後まで面倒を見ると言っていたが、それは間違いだった」「私は壊れてしまって、もう役に立つことはできない」と、泣きながら語った。
委員会が終了すると、ムーア議員にカードを手渡され、聞きたいことがあるのでオフィスに来てほしいと言われた。彼は元軍人で、上官には絶対服従することを教えられていたので、何の疑問も持たず言われたとおりにオフィスに行った。するとムーア議員がジンを出し、飲むよう勧めた。彼は、薬を服用しているからと言って固辞したが、看護士の資格を持つ彼女は「大丈夫よ」と言って、さらにもう2・3杯勧めた。彼は次第に、彼女の関心が自分の健康や福祉ではなく、別のところにあると察した。
彼はその夜ホテルに戻ったが、彼がメディアに語ったところによれば、彼女はホテルについて来て一夜をともに過ごしたという。これについてCBCは、彼女が「不適切な性的関係を持った」と断定的に報じた。
彼は、彼女との関係は一度きりのものだと考えた。だが彼女はその後、「露骨なメッセージ」を何度も送り続け、住所を教えていないのにブランドンの自宅まで押しかけて来るようになった。
カークランド氏は、メディアに次のように語った。
「私は、レイプや何かの被害を訴えているわけではない。」
「だが彼女は、不適切だった。彼女は欲しいものを手に入れるため、地位を利用し権力と権限を行使した。」
「そこには確かに、力の不均衡があった。彼女には地位と権限があった。そして彼女がウィア議員と同じ道徳的立場に置かれているのは、何とも皮肉なことだ。」
資格停止は一時的な措置であり、ムーア議員は調査報告が出るまで幹部会メンバーのままであるが、委員会と党における全ての役職を解かれている。シン党首は、確かな証拠がなくても「常に犠牲者を信じる」と断言した以上、前例と同じ措置を取らなければならないだろう。

(3) もう一つの告発
ムーア議員は、2015年にももう一人の議員のセクハラを告発し、政治生命を奪っている。
彼女の主張によれば2014年3月、友人とみなしていた自由党のマッシモ・パチェッティ議員が「オタワの家」と呼んでいたホテルに行き、「明確な同意のないセックス」をする羽目になったと訴えた。このとき彼女は、彼にコンドームを渡したという。
彼は自由党を永久追放され、政界引退に追い込まれた。
【参照】 http://blog.so-net.ne.jp/canadian_history/2015-03-20

図上:#MeToo運動のブーメランを食らったクリスティン・ムーア議員。
写真中左:クリスティン・ムーア議員。
写真中右:エリン・ウィア議員。
写真下:グレン・カークランド氏(車椅子の人物)。
図下:カナダによくいる捕食者。狐・熊・クーガー・下院議員。下院を英語で“House of Commons”と言うのにかけている。
http://brianlilley.com/the-curious-case-of-christine-moore/
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