
サイモン氏はケベック州クージュアクで1947年、白人の父とイヌイットの母から生まれた、史上初の先住民の総督となる。先住民との和解がかつてなく重視される時代にあって、次期総督には大きな期待が寄せられる。
「確かに私の任命は、私たちの共有された歴史の中で特に反省的でダイナミックな時期に来ました。」
トルドー首相は、彼女の指名を「歴史的な一歩」と語った。だが一方では先住民の総督誕生は、今年中に確実に実施されそうな総選挙の「対策」「ガス抜き」という推測もある。
サイモン氏は英語とイヌイット語を話すが、ケベック州育ちにもかかわらず、通っていたデイスクール(寄宿学校ではない)で教えられなかったため、フランス語を話せない。総督指名を受諾するに当たり、フランス語のレッスンに取り組んでいるという。
卒業後はCBCのアナウンサーとプロデューサーになり、数々の先住民団体の代表を務めた。1982年、イヌイットが自分たちの土地の開発から受け取った資金を管理するマキビック社の社長に就任。1999年に駐デンマーク大使、2002年には環北極8か国からなるイヌイット北極会議のカナダ大使を務めた。1984年に開催された憲法会議に先住民を代表して参加したときは、トルドー首相の父ピエール・トルドー首相(当時)に机を叩いて詰め寄っている。
夫は、ジャーナリストで作家のホイット・フレーザー氏である。

2010年にジャン総督の退任が決定したとき、サイモン氏は後任候補に挙げられた。だがケベック州から2人連続となること、女性が3人連続となること、フランス語が堪能でないことが問題視された。
彼女は2017年のジョンストン総督退任時にも、後任候補に挙げられた。だがトルドー首相は、同じケベック出身の女性であるパイェット氏の元宇宙飛行士という経歴に魅かれた。このとき、ハーパー前首相が設立した諮問委員会を通さず指名したため、後に批判された。そこで今回は、ドミニク・ルブラン枢密院議長が率いる諮問委員会を立ち上げ、候補をノミネートさせた。
ケベック州代表のクロード・カリニャン上院議員(保守党)は、次期総督の資質に疑問を呈した。
「フランス語を話す800万人以上のカナダ国民と話すことができない総督の指名を、総理はいかにして適切だと考えるのだろうか。」
写真上:記者会見するメアリ・サイモン次期総督。
写真下:1984年の憲法会議でトルドー首相(左)に詰め寄るサイモン氏。当時37歳。