カナダのコンビニ大手アリマンタシオン・クシュ=タール社が、日本のセブン&アイホールディングスに買収を提案したと、日本のメディアが8月19日に報じた。両社は同日、この事実を認めた。外国法人による日本企業買収では、2018年に東芝のメモリーチップ事業を180億ドルで買収したのを上回り、過去最大規模になる見込みである。
セブン&アイが経営するセブンイレブンは、北米のそれとは様相が異なっている。北米ではコンビニエンスストアとは、主に急いでポテトチップスやチョコレートを買うための店で、クシュ=タールは全店にガソリンスタンドが併設されている。だが日本の「コンビニ」は、小さなスーパーマーケットに近い。食品のほか家庭用品、トイレタリー、ATM、公共料金支払い、宅配便の発送と受け取り、住民票の交付まで含んでおり、地域のインフラですらある。食品にはおにぎりやサンドイッチ、調理済みのパスタ、フライドチキンや肉まんなど多彩なラインアップがあり、日本のコンビニは外国人訪問客の間でブームを巻き起こしている。
セブン&アイはコンビニのほか、スーパーのイトーヨーカ堂、セブン銀行、タワーレコード・ジャパンなどを保有している。だが投資家からは、不採算事業を売却しコンビニ経営に注力するよう圧力をかけられており、2023年百貨店のそごう・西武を売却し、祖業のイトーヨーカ堂も2023年以降で33店舗の閉店を発表している。
クシュ=タールは、売り上げの74%をガソリン販売が占めており、コンビニ売り上げは25%しかない。セブン&アイの井阪隆一社長は「全店ガソリンスタンド併設。レベル的に小売部門が強くない」「日本的なコンビニを世界に、とは相容れない」と評した。セブン&アイの匿名の関係者も「もう5年前から話が来ている。その間2回検討した。先方は今回100%完全買収を求めている。セブン&アイの北米事業に関心を持っていて、日本にはあまり興味がないと言っているようだ。シナジーも何もあったものではない」と明かした。
買収価格は公表されていないが、セブン&アイは申し込みを「友好的で強制力のないもの」と述べ、「両社の顧客・従業員・フランチャイズ・株主のためになる互いに合意可能な取引」を目指すと語った。
クシュ=タールは1980年、ケベック州ラバルで1店舗を創業したのが始まりだ。2001年にアメリカ中西部のコンビニを買収してアメリカに進出し、2003年にはサークルKを買収して、コンビニとガソリンスタンドの世界的チェーンに拡大した。コンビニは31の国と地域で1万6700店舗、アメリカで7100店舗、カナダで2100店舗を展開する。企業価値は580億ドルとされる。
セブンイレブンは1927年、冷蔵庫を冷やすための氷を売る店としてテキサス州ダラスに生まれ、やがて卵・牛乳・パンも売り始めた。営業時間が午前7時から午後11時までだったことが、その名の由来である。日本では1974年、イトーヨーカ堂がライセンス契約を結び、日本1号店を江東区豊洲にオープンした。 社内ではコンビニ事業に懐疑的だったが、失敗した場合は鈴木敏文専務が株式で穴埋めするという条件で了承を得た。
鈴木は、アメリカとの商習慣や食習慣の違いから、おにぎりや弁当の販売、POSシステムの導入など日本独自の経営を志向し、1991年にはセブンイレブン・ジャパンが米国セブンイレブンを買収した。現在は20の国と地域で8万5800店舗、アメリカで1万3000店舗、日本で2万1000店舗を展開し、従業員数15万7177人、1日の訪問客は6360万人となっている。
このニュースに株式相場は敏感に反応し、19日の取引ではセブン&アイ株は23%も値上がりして、2161円のストップ高で終えた。これは株式の100%取得に、5兆6000億円(約380億ドル)かかることを意味する。だが翌日は一転急落し、10%安で取引を終えた。クシュ=タールは具体的な出資比率や株式の取得方法を示してなく、買収の実現は困難との見方が広がったと見られる。
グローバルデータ社のニール・ソーンダース常務は、連邦取引委員会の調査は免れないと語った。
「アメリカのコンビニ市場において、セブンイレブンのシェア14.5%に対し、クシュ=タールのシェアが4.6%。2社の統合により、市場の約5分の1を支配することになる。」
「このレベルの独占は、間違いなく連邦取引委員会による詳細な調査をひき起こすだろう。」
クシュ=タールは2021年、フランスのスーパー「カルフール」を買収しようとしたが、食料安全保障を危うくするという理由でフランス政府が拒否権を発動したため、断念している。
セブン&アイとクシュ=タールは2020年には、アメリカのガソリンスタンドチェーン「スピードウェイ」の買収で争っている。結局前者が210億ドルで買収した。
彼はまた、日本企業の買収には特有の複雑さがあると指摘した。
「日本は買収をより容易にするための法改正をしたが、多くの日本企業は非常に用心深く、変化に抵抗を示す。それはセブン&アイにおいても、複雑な経営システムが買収の妨げとなるだろう。」
2024年08月23日
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