2024年09月01日

保守党党首、新民主党に閣外協力破棄を要請

 保守党のポワリエーブル党首は8月29日、新民主党のシン党首に手紙を送り、自由党政権への閣外協力から手を引くよう要請した。
 手紙には、こう書かれていたという。
「カナダ人は、この高くつく連立(筆者注※厳密には連立でなく閣外協力)のさらなる一年を容認できない。誰も、トルドー氏に権力を維持させるためにあなたに投票していない。あなたには、彼にあと一年権力を与えるための国民の信任がない。」
「ジャグミート・シン、労働者を売り渡すのはやめなさい。『売り渡しのシン』であることをやめなさい。あなたの年金より先に、人々を炭素税選挙に向かわせなさい。」
 議員年金の資格を得るには6年かかり、シン党首は2019年2月の補選で当選しているから、資格を得るのは2025年2月となる。ポワリエーブル党首は、新民主党が不評の自由党政権を支えているのは、シン党首が議員年金の資格を得るまで解散したくないからだと示唆している。

 このように保守党が新民主党に攻撃的なのは、9月16日に実施されるマニトバ州エルムウッド-トランスコーナ選挙区の補選を意識したゆえだろう。ここは1979年から2024年まで、2011~15年を除き新民主党が維持して来た鉄板選挙区だが、今回は保守党との接戦になっている。また保守党は、オンタリオ北部とブリティッシュコロンビアで新民主党と激戦を繰り広げている。保守党は新民主党を、不評な自由党政権の手先と印象づけたい。また中道有権者にも、自由党が左翼の味方だと印象づけたい。
 新民主党にとって、次の総選挙で不評な自由党と抱き合って心中するのは得策ではない。そこで当初の約束にはない、自由党がとうてい飲めないような条件を課し、拒否させてそれを口実に閣外協力を取り下げるという策謀はありえる。
 この場合自由党は、常識的には解散・総選挙に追い込まれるが、ケベック連合に部分的協力を得るというウルトラCもありえる。ケベック連合は世論調査を見ながら、今解散・総選挙をすれば議席を減らしそうだと思えば自由党政権の延命に協力し、増やせそうだと思えば内閣不信任に走るだろう。
 トルドー首相の父ピエール・トルドー首相は今から50年前、少数与党政権を運営していた。彼は新民主党の協力を頼りにしていたが、支持率上昇を見るや、新民主党がとうてい飲めない予算案を作成した。新民主党はこれを不信任し、解散・総選挙をひき起こしたが、自由党は過半数を獲得した。新民主党は、31議席から16議席に半減した。
 閣外協力と引き換えに要求された条件について、自由党政権は新民主党が逃げ出さないよう、わざと先送りにしてきた。処方薬の保険適用に関するファーマケア法案は、まだ上院を通過していない。選挙法改正法案は、まだ下院で審議中だ。今解散になれば、オンライン加害防止法案・先住民居留地水質保全法案・地球温暖化対策などは廃案となる。有権者に対する何の手柄もなしに、政権の不評だけ背負って総選挙に臨むことは、新民主党にはとうていできない相談だろう。
 自由党にとっても、今解散・総選挙をすれば大敗は必至の情勢だ。できるだけ先送りし、保守党のスキャンダル発覚のチャンスを待ちたい。

 新民主党のピーター・ジュリアン下院院内総務は、ポワリエーブル党首の狙いは公共サービス削減だと断言した。
「はっきりさせようではないか。ピエール・ポワリエーブルが選挙に勝ちたがるのは、健康保険を切り捨て、年金を切り捨て、大企業により多くの利益を与えるため失業保険を切り捨てたいからだ。彼は、ファーマケアがこの秋に間に合わないようにしたいのだ。我々は基本的に、彼の削減計画に同意しない。」
 新民主党のアン・マクグラス理事長は、両党間の協定がどうなるかについてはポワリエーブル氏が指図することではないと語った。
「ピエール・ポワリエーブルは、その決定をするようにはならない。協定をどうするかは新民主党の問題であり、我々が何を得られるかにかかっている。」
「協定から手を引く選択肢は、常にテーブルの上に乗っている。だが、するべき多くの仕事が残っている。」
posted by 高橋 幸二 at 11:24| Comment(0) | 新民主党 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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