2024年12月27日

トルドー退陣は不可避

 未曽有の不景気を招き、総選挙大敗が確実となったピエール・トルドー首相は、1984年2月29日、雪の中を散歩し退陣を決意した。その40年後の2024年2月、ジャスティン・トルドー首相が雪の中を歩き退陣を決意するかもしれないという推測があった。だが2015年に就任した彼は2025年まで務めたかったらしく、時間を稼いでいるように見える。
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 フリーランド副首相更迭を受け、新民主党は内閣不信任すると宣言した。すると保守党のポワリエーブル党首は12月20日、サイモン総督に手紙を送り、休暇中の連邦議会を召集するよう要請した。そこには、保守党・ケベック連合・新民主党に加え、トルドー首相退陣を要求する十数名の自由党議員を合わせると議会の70%に達するため「首相と相談」するよう要請すると書かれていた。
 だが議会はまだ会期内で、休暇中の議会を召集する権限は議長にあり、総督にはない。アルバータ大学で憲法学を教えるエリック・アダムズ教授は、手紙には効力がないと述べた。
「たとえトルドーが内閣不信任を避けられないとしても、それは問題ではなく、彼はまだ首相である。」
「総督は、首相の助言に従う。総督は、野党党首の助言を聞く必要はない。総督に手紙を送ることはできるが、総督は野党党首の指示は受けない。」
 ハーパー党首(保守党)・デュセップ党首(ケベック連合)・レイトン党首(新民主党)の野党3党首は2004年、クラークソン総督に手紙を送り、連邦議会の解散を要請した。だが総督に解散を要請できるのは首相だけで、野党党首に権限はなく、無視された。
 2011年には、自由党・新民主党・ケベック連合の野党3党が連立協議をまとめ、内閣不信任の後政権奪取しようとした。だがハーパー首相は、ジャン総督に連邦議会の停会を飲ませ、時間を稼いでいる間に自由党内に抗争が起き、連立政権を頓挫させた。

 連邦議会は1月27日に召集される予定で、内閣不信任は不可避の情勢となっている。トルドー首相にはいくつかの選択肢があり、第一は内閣不信任されるか、その前に総辞職するか。第二に、総辞職するなら党首選が必要で、議会を停会するかどうかである。
 連邦議会が1月27日に召集されれば、1月末か2月初めに内閣不信任される。選挙期間は36日以上50日以下と規定されているため、総選挙は3月か4月で、トルドー党首は大敗する。
 27日以前に総辞職するなら、党首選のため停会を要請するだろう。サイモン総督がトルドー首相に指名されたことから、彼女は応じるとみられる。この場合、議会や野党に煩わされることなく党首選を実施できるが、次期党首は野党党首ではなく次期首相なので、幹部会だけで選出する暫定党首はふさわしくなく、全党員によるフルセットの党首選になるだろう。そうなれば、3か月は必要になるだろう。
 ジェイ・ヒル元下院院内総務の側近だったヤロスラフ・バラン氏は、3か月以上の停会は困難だと語った。
「首相が停会すれば、1月27日に議会と向き合う必要はない。それで彼は、党の再編成に時間を稼ぐことができるが、3月末を過ぎて停会するのは困難だろう。」
 トランプ次期大統領は1月20日に就任すると、カナダがフェンタニル流入への対策を取らなければ報復関税25%をすぐにでも課する勢いを示している。カナダはその前に対策を示す必要があるが、この瀬戸際で首相が政権を投げ出し、議会を停会して党首選に専念するのはタイミングが悪いと、枢密院元職員のマイケル・ウァーニック氏は述べた。
「私の考えでは、1月20日より前に盾を降ろすのは悪い選択だということだ。私は議会が召集されていて、機能していて欲しいと思う。」

 自由党にはいくつかのジンクスがある。フランコフォン左派とアングロフォン右派が交互に党首に就くことと、長期政権が退陣した次は短期政権になることである。ポンパドール夫人は「我が亡き後に洪水来たれ」と言い、自分が去った後に災難が起きても知ったことではないと語った。過半数を占める野党3党が政権打倒を誓っている以上、首相を変えたところで不信任されるリスクがあることに変わりはない。何もしていない首相を不信任する名分はないだろうが、スローン・スピーチ(所信表明演説)は信任投票の対象であるし、3月には予算案を上程しなければならないから、議会が停会されようがされまいが、首相が誰だろうが同じことである。
 党首選の再有力候補は、マーク・カーニー元総裁であろう。彼は、自分がクリスティア・フリーランド副首相を追い出したという悪評を買わないよう、賢明にも入閣を固辞した。
 フリーランド前副首相は、議員たちの間で評判が高い。アニータ・アナンド運輸大臣兼国内貿易大臣は党首選への意欲を隠さないが、国防大臣として軍内部のセクハラに対処できなかったとして予算庁長官に格下げされている。
 フランソワ=フィリップ・シャンパーニュ革新・科学・産業大臣は、出馬の意向を示しているという。彼はフリーランド氏の次の財務大臣ポストを狙っていたが、得られなかった。メラニー・ジョリー外務大臣も、おそらく出馬するだろう。金髪で美人だというだけの理由で、トルドー首相との不倫を噂された。ルックスはピカイチであり、外務大臣としての評判もいいが、フランコフォンの次はアングロフォンというジンクスがある。
 ダークホースとして、ブリティッシュコロンビア州首相を6年務めた「首相ママ」クリスティ・クラーク氏が、出馬を宣言している。政治評論家を務めている彼女は、党首選に備えフランス語のレッスンを受けていた。
posted by 高橋 幸二 at 15:10| Comment(0) | 自由党 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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